カーバが寝ていた。
相も変わらぬ珍妙な寝相は、見ていても呆れるとか和むとか全部すっ飛ばしていっそ清々しい程、オレの中に何の感慨も湧かせない。いや、確かにこのクソ暑い時期、きちんと丸まって寝ているヤツの方が少ないし、オレだって少々は開放的な寝相を晒していたりもするのだけれど。普段の神経質なまでに自律した振舞いが仇になっている、んだろう。そう思うと、何だか心の奥に酸っぱいものが込み上げてくる気がする。カーバだって暑いだけなのに。
すとんと顔の横に腰を下ろしてみた。浅い寝息は暑くて寝苦しくてそうなってるだけなのか、狸寝入りをしている所為なのか、ちょっと判断できない。木陰とはいえ真昼間だ。気温は体温に迫りつつある。うだうだと考えるのが面倒になってきている程度には、脳味噌がちょっぴり発酵して全身が痺れてきているような錯覚を起こす程度には、暑い。つーか、暑すぎるわコンチクショウ。
ぱたりと身を倒した。無意味な逆ギレで最後の気力を使い果たしたらしい。オレも相当にキてる。こんな時は寝るしかない。カーバの肩から伸びた腕の先っちょの指が目の前に来るような位置に寝転んで、目を閉じた。僅かに空気が動いたような気配を感じたのを最後に、オレの意識はふっと途切れた。
「･･･何のネタだよ」
折り重なるようにしてみっしりと木陰を埋め尽くしている雄猫たちの姿を目にして、タガーはぼそりと独り言ちた。珍妙な寝相のカーバの横に、実に開放的な格好でギルが寝ている。その頭の上に当たる方向には図体に似合わないころりとした姿勢のプラトーがいるし、カーバの腰辺りに頭を擦り付けるようにしてコリコが、その尻尾を踏みつけるような位置関係でミストが、そしてその集団から弾き出されたような僅かに距離を置いた位置にランパスが寝転んでいる。そして、そのランパスと隣り合うようにして寝息を立てているのは、なんとマンカスだ。この一大昼寝祭りはギャグか、とタガーがまず考えたのも無理はない。
呆然とその木陰を眺めていたタガーは、ささやかな足音の後に現れた気配に振り返った。彼の斜め後方に立ち止まったのは、焦茶色の毛並をした雄猫だった。彼はタガーと同じモノを見て、滅多に変えない表情に呆れの色を浮かばせた。
「何の遊びだ？」
「俺に聞くなよ」
「では、混ざってみるか」
どうやったらそう繋がるんだというタガーの言葉にならないツッコミをさらりと流して、タンブルは迷わずランパスの隣、マンカスとランパスを挟むような位置の隙間に身を滑り込ませていた。あぁ確かにここは床が気持ち良いとか何とか小声で呟くと、彼はタガーが何か言うよりも早く本当にそのまま眠ってしまったらしかった。
「つーか、さぁ」
脱力のあまりがっくりと肩を落としたまま、タガーは呟いた。
「ここ、俺んちのテラスなんだけど」
風通しの良い木陰という猫の昼寝に最適な場所の正当な持ち主は、大きな溜息を吐いてクーラーの効いた居間のソファへと引き返した。
FINE
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