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無題(FF)/ 04/30,2005
2002年、夢醒め同盟さんに投稿した作品です。
当時のグレイトリオはヤクザ=野中さん、暴走族=吉原さん、部長=川地さんでした。





「この間メソが行っちまったとこなのに、まーた次かよぉ」


霊界空港に新しいグレイパスポートの持ち主が来たのは、メソが光になってまだ数日しかたっていない頃。


「それがどうやらね、また、受験生らしいんだよ」
「はぁ?またかよ。俺、こーいっちゃなんだけど、暗いヤツ苦手なんだけどよぉ」


箒で塵を集めながら『部長』が言うと、傍らの『暴走族』が掃除機に乗ってホースを担ぎごろごろと移動してきながら大きい声で返す。
「――自殺?」
眉をしかめながら部長を覗き込むと、彼は肩をすくめてわからん、と答えた。
「っつーかおっさんよぉ。アンタ、なんでそんな情報知ってんの」
暴走族の横でしゃがみこんで、手に持ったハタキで部長の集めた塵をはたはたと飛ばしながら『ヤクザ』が聞くと、部長は涼しい顔でヤクザに向かって塵を掃き返す。

「情報収集は営業の基本だからな―――ほら、掃除機で吸っておくれよ。」
そう言いながら箒で暴走族をつつく。


「ま、いーけどさ。メソもじーさんもいなくなっちゃったから、ちょっとはまた賑やかになるだろ。っていっても、メソはいてもいなくても静かだったけどな」
掃除機に座ったままゴミを吸い取りながらそう言う暴走族をチラッと見て、部長はくつくつと笑う。
「なんだよなんで笑うんだよー」
「いや…君もなんだかんだ言って、彼らのことが好きだったんだなぁと思ってね」
少し顔を赤らめながら暴走族はちぇっと顔をそむけた。
被ってしまった埃を叩き落としつつ、ヤクザは立ち上がる。

「わからんでもねーなぁ。アッシもちょっとこう、寂しくってよお。ここに来た時から当然のようにいて、なにかっつうと薀蓄たれてたじーさんがいないってのは、なんか変なもんだぜ」
「私もだよ」
にっこりと笑い、暴走族の肩をぽん、と叩きながら部長が言う。
「メソのことも息子のように思っていたからねぇ私の場合は。何か昔の自分を見ているようで痛々しかった。何しろ受験というものはだね…………」
「まーた始まったよ。おう、行くぜ」
遠い目をして昔話モードに入ってしまった部長をそこに置いたまま、ヤクザと暴走族はさっさとロビーから出て行ってしまった。


「……ひどいねまったく。置いていくなんて」
箒を片手に目だけで二人を追い、部長は軽くため息をつく。

受験生という特殊な時代。
勉強ができるかできないか、いい大学に入れるか入れないか。そんなことで自分自身の価値が決まってしまう気がしたあの頃。同級生はライバルでもあった。試験の結果に一喜一憂した。
彼ら二人には一生理解できまい。あぁ、いや、一生はもう終わっているんだったな。
苦笑をしながら歩き出そうとすると、向こうから爽やかなエンジェルの声が近づいてきた。噂の新人を連れてきたのかもしれない。


「……あなたの仲間は3人いるんですよ。みなさん、すっごくいい人たちですから安心してください。あなたを見ると絶対驚くと思いますよ」


―――なぜそこで君は「すごく」を強調するかね。
この新人職員は単純なのだかそうでないのかわからん。あれで素でやっているのだから逆にタチが悪い。私にとっては扱い辛くてたまらんな。

そんなことを思われているとは露知らず、姿を表したエンジェルは部長をみつけ、にっこりと微笑んで言った。
「あぁ、部長さん、ここに居たんですね。新しいグレイパスポートのお仲間ですよ」


その新入りを見て、部長は箒を取り落としてひと言「はぁ?」とつぶやいた。



*  *  *



「おい、おっさんこねぇよ。置いて来ちまってすねてんじゃないかい?」
ハタキで肩を叩きながらヤクザが言うと、暴走族も少し気になっていたのか、渡りに船とばかり「戻ろうか」と言い始めた。

「だいたいよぉ、おっさんは変なところでまじめっつうか、カタギなんだよなあ」


いや、だから、堅気なんだってば。
暴走族は心の中でツッコミを入れる。そうか、最初はこの人のことも怖かったっけなあ。今じゃこんなに仲良しさんだ。


メソが光になって以来、自分達もそのうち別れの時が来るのだという事実に、今更ながら戸惑っていた。
光になりたい。ホワイトパスポートには憧れているし、光の国へのロケットを見送るたびに羨ましくてしょうがない。白い制服に身を包んだメソがまぶしかった。


だけど最近、こんな何気ない日常が終わってしまうのが寂しいような気がしてきた。そりゃあ光になればまた違う楽しみが生まれるのかもしれない。でも軽口を叩く相手もなければ自分の身体もない。今は死んだ身だけど、ここにいる限りは生きている時とあまり変わりはない。ボランティア活動をやっているとでも思えば捨てたものでもないとすら思うようになってきた。
ここに来る人たちは幸せな一生を送った人ばかりではない。戦争や事故、病気。まだまだ若いうちに自分とは全然違う理由でここに来た子供たち。まだまだ生きたかったのか、生きていても地獄だったのか。

自分は馬鹿な理由で死んでしまったけど、ここでそんな人たちのために働いていると、自分の罪を少しでもつぐなっているような気がする。このままずっと働いててもいいかもな、などとも思う。
「いっそのこと職員になれねぇのかなぁ…」
ぼそりと口をついて出たことばはヤクザには聞こえなかったらしい。


「なんだって?」
「いいや、なんでもない。それより、早く戻ろうぜ。またなんか言われちまう」



あわてた暴走族に急き立てられ、ほてほてとロビーに戻る。
受験ってのはよくわかんねぇな。そんな、死ぬほどのモンなのか?

受験どころか中学すらまともに通ったことのないヤクザは不思議に思う。
だいたい受験できるってことはそれなりにいい環境に住んでるってことじゃねーかよ。アッシみてえにお陽さんの下で暮らせねぇヤツとは訳が違う。それに金がねぇわけじゃねーし、たかだか勉強すりゃいいだけのことだろうが。


メソの話を聞いた時も、根性ねえヤツ、と思っただけだった。部長がフォローをしてきたが、そんなもんかい、ですんでしまった。同情はできるがわかってなんてやれねえ。
だいたい、大学に落ちたくらいでビルから落ちるヤツがいるかい。しかも始終暗いときてやがる。物事もはっきり言えねえ。


―――あの日。
自分達がメソにあんな行動を取らせてしまったのではないかと、独りになった時にふと考えた。
受験で失敗したくらいで自殺するヤツが、ばれたら文字通り地獄に堕ちるような大それたことをするなんて考えられねえ。あいつはそうそうキれるやつでもなかった。
まぁ、チャンスだけはものにするやつみたいだったけれど。


最初はメソの全てにいらついた。
いや、結局のところ、最後の最後、あのデビルに食ってかかった瞬間まではそうだったのかもしれねえな。
ヤクザはそう思う。
いつもびくついていた。正面きってモノを言ってこれなかった。そのメソが、デビルに向かって怒鳴った。
マコという子の書類を見つけた瞬間、初めてメソの本気の笑顔を見たような気がした。
ピコがここに来て、そして去った日、自分は初めてメソを認めた。けっこう根性あるじゃねえか、と。



そんな思いにふけりながらロビーへ入ったので、部長の他に誰かいるなんて思いもよらなかった。

「あ、ちょうどよかった。二人ともいますね。新人さんを連れてきましたよ」
エンジェルの声に我に返ったヤクザは声を失った。



「「め……めめメソっ!?」」



二人同時に叫んだ。


―――――『新人』は、メソにそっくりだった。




向こうではしたり顔で部長が頷いている。
「私も吃驚したよ。その気持はわかる」
エンジェルも苦笑をしながら、やっぱり、とつぶやいた。
「僕も最初は驚きましたよ。だってついこの間のことですしね。でも、よーく御覧なさい。彼とは別人ですから」
「あぁ、全然別人だ。君たちも驚くがいい」


なにをこれ以上驚くっつうんだよ。
そんな顔で『新人』を見た二人は、再び固まった。


メソ(によく似た新人)は、二人を見るなり全開で微笑んだのだ。



「生きてる時はニカって呼ばれてました!よろしくお願いします!」



*  *  *



「…なんだってこんなまた体育会系の明るいのがアレそっくりなんだよ。」
とっときの酒を舐めながらヤクザが言う。エンジェルのはからいで今日は特別に歓迎会を開かせてくれた。彼も後で顔を出すと言っていたし、なじみの職員も二人三人来るといっていた。まあそれはきっと酒狙いだろうが。
「で?何でお前さんグレイパスポートなんてもらったんだい?」
納得がいかない顔のヤクザを無視して、部長はニカに聞く。

「いや、自分ね、受験生なんですけど危ないことばっかしてたんです。
 山が好きで、学校サボっては山登ったりしてました。勉強もそれなりにしてたんだけど、親にはめちゃめちゃ心配かけてましたから。」
そう言いながら正座でお茶をすする彼はすまなさそうな顔をしているのにどこか楽しそうで、部長はとても違和感を感じてしまう。
「で、ある日滑落しちゃったんですよ」
「滑落?…ってなんだよ」
つんつんとわき腹をつついてくる暴走族に、部長は苦笑しながら答える。
「落ちたんだよ、崖かどこかから」
「落ちたぁ?死んじまうじゃん!」
いやだから死んだからここにいるんじゃないか、と部長が心の中でツッコミをいれるのと同じタイミングで

「や、だから死んだんですってば。親不孝モンでしょ?」
と、ニカが笑いながら答えた。


そんなあっさりと、と、部長は呆れたのを通り越して感心してしまう。
こんなところも、あいつにはなかった。
だいたいまず制服からして違う。灰色のブレザーなんて、あいつに似合うんだか似合わないんだか。
苦笑をする部長を覗き込んで、ニカは笑顔のまま、口調だけは真剣に言う。
「ところで、俺、誰かに似てるんですか?ここに来てから会う人会う人、みんな驚いた顔するんですよね」




三人は思わず視線を交わす。
 (どうよ。えぇ俺?。だってよぅ。こーゆーのあんただろ。また私かい?)


肘で突き出され、部長はこういう時だけ私に押し付けるのだから、という顔をしながらも、ニカに向かう。


「顔が似ている、と言う点では、我々の知っているメソという人物に非常に似ている。」
顔だけは。
しかし話してみるとよくわかる。似ているのは、顔だけ。「彼」に半分でも分けてやりたいほどの、光を持つ青年。まるで正反対な二人。
「だけど、君は彼とは全くの別人だよ。君は君だ。気にしなくてもいい」


そして、まだ肝心なことを言っていないな、と思い出し、にっこり笑って手を差し出す。


「ようこそ、霊界空港へ。ホワイトパスポートをもらう日まで。しばらくの間だが、よろしく頼むよ」



メソにそっくりだけど、雰囲気が全く違って別人のようなニカの笑顔は、意外にもあの日のメソにそっくりで、彼らはもう会うことのできない彼らの仲間が帰ってきた気がして、嬉しくなった。





FIN.
2002.9 1stUP
2005.4 改稿
夢の配達人/ 04/17,2005

えーと……見たまんまです(笑)。

北澤配達人、これを描いた時点ではまだ観てないんですが、こんな感じかなぁと描いてみました。ネタ絵は好きなんですけどね。


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